多様な教育機会 〜毎日新聞記事〜

くらしナビ・学ぶ:「多様な教育機会」なお課題 フリースクールなど義務教育容認

毎日新聞 2015年11月16日 東京朝刊

 不登校の小中学生が通うフリースクールや家庭での学習を義務教育として認めようと、超党派議員連盟が今年の通常国会提出を目指した「多様な教育機会確保法案」は、各党から課題や懸念が示され提出が見送られた。成立すれば義務教育の場を小中学校に限定してきた戦後教育の大転換になるだけに、議連は来年の通常国会への提出を目指してさらに検討を続けている。不登校経験者や保護者らの考えも割れており、それぞれの立場から意見表明がされている。

 ◇法案提出見送り

 いずれも超党派の「フリースクール議員連盟」と夜間中学の拡充を目指す議員連盟が5月に合同総会を開催、どちらにも中心的に関わってきた馳浩衆院議員(現文部科学相)が立法チームの座長に就任。この時に最初の試案を公表、8月に新たな試案を示した。

 これらの試案は、フリースクールや自宅で何をどう学ぶのかを保護者が「個別学習計画」にまとめ、市町村教委が認定すれば、学校教育法の特例として保護者は子どもを就学させる義務を果たしたとみなす。

 さまざまな事情で義務教育を受けられずに学齢を超えた人が学ぶ夜間中学への支援も盛り込まれた。入学希望者がいれば、公立夜間中学を設置するなどの必要な措置を講じることを自治体に義務付ける。

 しかし、学校以外の場で行われる教育の支援を定めた部分に議員から異論が噴出した。9月に修正案が出されたが、個別学習計画を巡り「教委が認定する基準をどう定めるのか」といった課題や、「不登校の子が学校から見放されてしまうのでは」といった議員らの懸念はぬぐえなかった。

 議連は来年の通常国会提出を目指し、学校在籍を前提に校外での学習を義務教育として認めたり、17条の就学義務のみなし規定を削除したりする案も検討するとみられる。

 ◆賛成

 ◇「不登校の劣等感緩和」

 議員立法を働き掛けてきた市民団体「多様な学び保障法を実現する会」などは10月20日、東京都新宿区で「多様な教育機会確保法 ここまできた!報告会」を開き、約150人が集まった。

 不登校の子どもの居場所「東京シューレ」を30年間運営してきた奥地圭子理事長は「不登校の子たちは引け目やつらさを抱えてきた。学校に行くのを苦しく感じる子が多い中、学校を選べないことが大きな問題だと感じてきた。学校教育以外の学びが正規に認められるのは大歓迎だ」と感慨深げに話した。喜多明人・早稲田大教授は「学校ありきの公教育法制に風穴を開けることが重要。年齢や国籍にかかわらず、子どもの意思を尊重するという基本理念が法案に残っている限り前向きにとらえたい」と話した。

 中学1年の娘が不登校だという母親は、「インターネットでフリースクールの存在を知るまで半年かかった。学校には『中学に戻る気がないならフリースクールに通っても出席日数と認めない』と言われた。法案が多様な教育を知らせるきっかけになってほしい」と望んだ。

 小学5年で不登校になり、フリースクールに通うようになったという19歳の男性は「法案が成立すれば不登校の子の劣等感が緩和されるのではないか。近所の人に『学校はどうしたの』と聞かれるのが一番つらい。それがなくなれば、外に出たくなる不登校の人は多い」と訴えた。

 このほか、ブラジル学校などの運営に携わる人たちも法案への期待を語った。

 ◆反対

 ◇「親も子も管理される」

 2日、渋谷区で開かれた「STOP!多様な教育機会確保法案緊急フォーラム」には約160人が参加した。市民団体「不登校・ひきこもりを考える当事者と親の会ネットワーク」などが主催した。

 カウンセラーの内田良子さんは「個別学習計画を教育委員会が審査・認定し、場合によっては認定取り消しもあるとしたら、家庭が学校のようになり、子どもが居場所を失う。子どもが安心して休む権利を保障することが求められる」と話した。石井小夜子弁護士は「非常に問題の多い法案。今まで以上に親も子も管理される」と指摘した。

 集会では3人が不登校の経験を語った。その一人、橋本真希子さん(33)は、いじめで中学1年から不登校になった。両親から「学校には行かなくてもいいが勉強をしなさい」と言われ、「エネルギーが切れて、好きな教科も手につかなかった」という。不登校児を受け入れている学校やフリースクールなどにも行ったが「さらに疲れてしまった」と振り返った。法案について「個別学習計画が、考えたり休んだりすることよりも優先され、本人にも親にもプレッシャーが増えるのではないか。自分を責めて追い詰められる子が出るのではないか」と話した。主催団体の共同代表である下村小夜子さんは「多様性を認めず、子どもを追い詰める学校文化こそ変えるべきだ」と訴えた。【高木香奈】

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 ◇多様な教育機会確保法案が定める「個別学習計画」の位置付け

・相当期間学校を休み、就学困難な子の保護者は個別学習計画を作り、市町村教委の認定を受けることができる(12条)

・市町村教委から認定を受けた保護者は、就学義務を果たしたとみなす(17条)

・個別学習計画には、子どもの学習・生活状況、学習活動の目標、実施方法などを書かなければならない(12条)

・市町村教委は学校関係者や専門的知識をもつ人たちと学習支援をする(14条)

・市町村教委は個別学習計画に従い義務教育を修了した子に修了証書を授与する(18条)

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 ◇フリースクールなどの法整備を巡る最近の動き

14年6月 超党派の「フリースクール議員連盟」発足

   9月 安倍晋三首相が東京シューレ視察。公的支援検討の考え示す

  11月 文部科学省フリースクール関係者を集めた全国フォーラムを初開催

15年5月 議連が夜間中学の拡充を目指す議員連盟と合同総会。多様な教育機会確保法の座長試案を提案

   6月 合同議連・立法チームが検討開始

   9月 第4回合同総会で今年の通常国会での法案上程を見送り各党手続きを進めると確認

http://mainichi.jp/shimen/news/20151116ddm013100019000c.html