朝日新聞 2016年6月3日05時00分
不登校の学習支援、道半ば 教育機会確保法案、継続審議に
フリースクールなど学校以外の場で学ぶ不登校の子どもを支援する法案(教育機会確保法案)は、今国会では継続審議となった。学校外の学びを義務教育制度に位置づけた原案は大幅に修正されたが、成立には至らなかった。法案はどこへ向かうのか。
校外の学び、修正も実らず
「次(の国会)に期待していただきたい」。5月31日にあった「超党派ログイン前の続きフリースクール等議員連盟」と「夜間中学等義務教育拡充議員連盟」の合同総会。フリースクール議連会長の河村建夫・元文部科学相は、集まった関係団体の代表らに述べた。
法案は2議連が議員立法としてまとめた。自民、公明、民進、おおさか維新が5月、衆院に共同提出したが、共産、社民が加わらず、「全会一致を目指すべきだ」と民進から声が上がり、成立が困難になった。
不登校の小中学生は約12万人と高止まりし、家やフリースクールで過ごす子がいる。学校と認められていない「オルタナティブスクール」を選ぶ家庭もある。法律によってそうした多様な学びが認められ、選べるようにする運動が法案の出発点だ。
議連の立法チームは昨年5月、不登校の子がフリースクールや家庭で学ぶことを義務教育として認める原案をまとめた。しかし、与野党の様々な批判で、学校外の学びを選べる根幹部分を削り、不登校対策に絞った法案に大幅修正された。
5月末の議連の総会の出席議員からは、早期成立を目指す言葉や、「多くの人の賛同が得られる内容にしていきたい」とさらなる修正を求める声も出た。
フリースクールや不登校関係者も法案への立場が割れた。NPO法人東京シューレ理事長の奥地圭子さんらは3月に記者会見し、「学校以外の学びを『選べる』は法案から外れたが、『認める』は入った。現状を変える一歩になる」と成立の必要性を訴えた。
不登校ひきこもりを考える当事者と親の会ネットワーク共同代表の下村小夜子さんは「かえって子どもを追い込む」との立場だ。「法律をつくるより、すべての学校を、多様な子どもを包摂できるものに変えることが先決だ」と話す。(片山健志)
■来年度予算に向け動く 馳文科相に聞く
議員連盟の立法チームの座長を務め、現在は文科相の馳浩氏に聞いた。
――法案が今国会で成立しなかった。
残念だが従います。つづら折りの紆余曲折(うよきょくせつ)があった。私は最初の案がベストと思っている。だが学校に在籍したまま欠席を認める案があり、さらに、欠席し休養をとることの必要性を盛り込んだ案になった。どれも座長時代に手元で考えていた案です。
反対が色々出たが、与党には不登校にならないよう学校教育を充実させるべきだとの考えがあった。そして、どうしても行けない子ではなく、不登校全体に光をあてる流れができた。ここは小さく産んで大きく育てることが必要です。
――現在の政策を並べただけでは。
法案は従来の政策を明文化し、一人ひとり実情に応じて対応するという理念に基づいて踏み出すよう文科省に促しています。
長年、不登校の場合も出席扱いにするかどうかを校長に、実質的な学習支援をフリースクールや自治体の教育支援センター(適応指導教室)に委ねてきた。法案が出てきたのはその反省から。文科省からはこうした議論は出しづらかったでしょう。
――今後はどう対応を。
与野党の大多数が提案に賛成しているので文科省は来年度予算の概算要求に向けて準備を進めます。例えば教育支援センターは基本方針・計画、ガイドラインをつくり財政支援する必要があると思っています。(編集委員・氏岡真弓)
■法案のポイント
●国や自治体は、学校外での「多様で適切な学習活動の重要性」や「休養の必要性」を踏まえ、子どもや保護者に情報提供・助言
●不登校の子に配慮した教育課程に基づく「不登校特例校」や、学校復帰の指導や援助をする自治体の「教育支援センター」を整備
●不登校の子の学習活動や心身の状況を継続的に把握